ヨーロッパ40日の旅 8 スペインーバルセロナ Part1
●バルセロナ(2007年9月13日〜19日)
40日の旅 最後の2週間はスペインで過ごしました。旅の中で最も感動的であったバルセロナの様子は2回にわたって紹介します。
9月13日。
ローマのフィウミチーノ空港からスペインのバルセロナへ飛びました。バルセロナ・プラット空港から国鉄アエロポルト駅へ歩き、近郊線セルカニアスでサンツ駅へ。夜遅く、vallcarca駅に着きました。バルセロナでは7泊し、前半5日間はモンセラートYHに宿泊しました。
モンセラートYH。
外観から内装まで美しいYHです。バイキング形式の朝食も充実しています。
9月14日。
カサ・ミラ。
バルセロナは建築家アントニオ・ガウディの街です。カサ・ミラは1906年〜1910年にかけてガウディが建築した集合住宅です。ラ・ペドレラ(石切り場)の異名を持ち、徹底的に直線を排除したこの曲線的な建物は、まるで巨大な抽象彫刻のように市街の中心地に建っています。
テーマは山。円熟期をむかえたガウディの傑作です。
独創的なアイディアと最高の技術が随所にちりばめられています。
第一印象は「やさしい」です。
これまで僕が見てきた直線的な建築と異なり、天井の角まで丸く造られていて、曲線を複雑に駆使した柔らかな造形がとても気に入りました。角がない天井を見上げると、微妙な起伏に光が緩やかに反響し、自然の中にいるような印象を与えてくれます。おおらかな空間はとても心地よく、涙が出る程 感動します。僕は、こんなにやさしい建築を見たのは初めてです。
すべての部分がこだわり抜かれています。
子どもの部屋。
最上階ではガウディ建築に関する展示が見られます。
様々な自然物や生物から着想を得ていたことがわかります。
さらに階段を登り屋上に出ました。屋上から見下ろせる中庭は、カサ・ミラ全体を支える脊椎の役目を果たしています。
屋上からサグラダ・ファミリアがはっきりと見え、一気に興奮が高まります。
サグラダ・ファミリア聖堂。
異端の天才建築家ガウディの大傑作です。僕が今回の旅で最も楽しみにしてきて、実際に最も心を動かされたのがサグラダ・ファミリアです。サグラダ・ファミリアは聖家族贖罪聖堂を表し、聖家族(イエスと聖母マリア、養父ヨセフ)に捧げる、罪を贖う貧しき者たちのための聖堂という意味です。
サグラダ・ファミリアの建設は1882年、初代主任建築家ビヒャール・ロサーノにより開始されますが、彼は約1年で辞任、二代目の主任建築家として31歳の若きガウディが選ばれます。それにより、この聖堂は、誰も見たこともない姿に変貌を遂げ、バルセロナに生まれることになりました。
着工から120年以上を経た現在も尚、サグラダ・ファミリアは建設が進められています。イエスの塔(170〜175m)を中央に、その少し後ろにマリアの塔(125〜140m)を構え、イエスの塔の周りには4人の福音書家を表す4本の塔(150m)が立ちますが、これらはまだ完成していません。
それら6本のメインタワーを12人の使徒を示す12本の塔(全て100m前後)が4本ずつ、東に向けられた「生誕の門」、西に向く「受難の門」、南に向く「栄光の門」という3つのファサードを構成します。
僕が訪れた時点で完成していたのは、生誕の門と受難の門、後部の建物と聖堂本体の一部であり、栄光の門が建設され始めたばかり、という状態でした。しかし、それでも壮大なサグラダ・ファミリアの迫力は圧倒的で、前人未到の異様を誇る石の怪物でした。
生誕の門。
無数の石が100mを超える高さまで積み上げられ、まるで天国へ向かうかのようにそびえています。巨大な石の塊なのに、天に上昇していくような不思議な印象を与えてくれます。
ガウディは、天井に両端を固定した糸(先に錘付き)を吊り下げて行った「逆さ吊り実験」で得られた構造を元にデザインしました。次の写真を逆さにして見ると、建物の形が見えてきます。上昇感を持つガウディ建築には、様々な秘密が隠されています。そして、彼が狂気の建築家ではなく、極めて合理的な思考を持った建築家であることがわかります。
一見すると常軌を逸する過剰な装飾。あきらかに他の聖堂と比べ、異質です。とんでもなく複雑な装飾があしらわれていて息を呑みました。
でも実は、生誕の門の装飾的な彫刻は、鋭角的なアーチを構造的に補強する役割も果たしています。そしてさらに、その彫刻が15体の天使像を置くための空間と台座になり、イエスの誕生から青年期までの物語を表現することにもなっています。
中へ入ります。
ガウディは、自然界には重いものを壁や柱で垂直に支える構造がないことに注目しました。それを元にサグラダ・ファミリアの内部の構造は、壁や柱がどれも少しずつ斜めに組み合わされ、たいへん有機的な姿になっています。
ステンドグラスは今まで見たどの教会のものよりも鮮やかでフレッシュで美しかったです。
もちろん内部も建設中です。無数に組まれた鉄パイプの中からサグラダ・ファミリアの石工たちが現れました。ガウディの意志を受け継ぐ職人たちです。
太陽の動きによって多方向から差し込む自然光の様子も計算されているそうです。
身廊部。
巨大な植物のようです。上に行くほど柱の角が増えて円柱に近づいていきます。
螺旋階段を歩いて十二使徒の塔に上りました。
真近で鑑賞。全体を貫く構造から細部にいたる桁外れなこだわりまで、どこを見ても魅了されます。
大窓の上にあるフルーツです。
色も形も魅力に富んでいて本当に楽しい気持ちになりました。
外から見たステンドグラス。
非現実的な世界を体感できる聖堂からバルセロナを見渡すと、奇妙な感覚になりました。
サグラダ・ファミリア聖堂の完成予定図。
さらなる期待が膨らみます。
内部の展示です。
木、葉、貝、骨、芽、エイ等、様々な自然物から柱やオブジェ等の形状のヒントを得ようと研究が行われていたことが理解できます。
自然から魅力を引き出し、新たに自然そのものを生み出すように創造されたガウディ建築は、親しみを感じさせ、限りないやさしさに満ちています。
模型。
手で考えることを大事にしていたガウディは、図面よりも模型を使って職人たちにイメージを伝えていたと言われています。
完成が本当に楽しみです。
受難の門。
生誕の門とは異なり、やや白っぽい色身と角張った造形をしています。
彫刻の表情も異なります。
豊かな想像力を持って、自然から学び、発想し、合理的思考とセンスで複雑な要素を組み合わせ、一つの壮大な作品を創造するガウディこそ、僕は史上最も偉大な芸術であると思っています。見るものに純粋な感動を与える普遍的な造形美に出会いました。
9月15日。
ランブラス通りを歩きました。
花屋や本屋、カフェやレストランが並んでいます。
カタルーニャ音楽堂。
20世紀初頭、ガウディに並ぶモデルニスモを代表する建築家ドメネク・モンタネールの最高傑作と言われています。
鮮やかなシャンデリアやステンドグラスが輝く美しい大ホールがあります。角張ったゴシックと異なり有機的な構造になっています。彫刻と共に様々なタイルによるモザイクが絶妙に配され、予想以上に個性的な音楽堂でした。現在もコンサートに使われています。
カサ・バトリョ。
ガウディが増改築した住宅です。外のパセジ・ダ・グラシア通りに立ち建物全体を一望すると、正面の姿がまるで海面のように見えてきます。色とりどりに輝く陶器製の円盤やガラスの破片に覆われたファサードが強く目を引きます。植物をモチーフにした細い枝上の支えは、ファサードの構造を自然に補強するようになっています。ガウディ独自の柔軟な発想です。
内部は心臓の鼓動が聞こえてくるような、生命の体温を感じるようなやわらかな造りになっています。
屋上に上るとドラゴンの背びれをイメージした屋根の部分とタイルの破片でできた美しいモザイクが楽しませてくれます。
カサ・バトリョのテーマは海。
最上階から地上階へ向かいます。自分が海の中にいるようでした。
エレベーターに乗り込みます。
エレベーターのガラスが滑らかに揺らいで、海の中へと潜っていくような感覚になりました。
カサ・バトリョは自然や生命の気配に満ちていて、様々な豊かな感情を呼び覚ましてくれました。
ランブラス通りの大道芸人たちが訪れる人々を楽しませてくれます。
レイアール広場。
四角形のきれいな広場でした。
ガウディが若い頃に造ったガス灯も見られます。
スペインは食べ物が日本人好みなのかとてもうまいです。
スペイン人のおじさんやイタリア人サッカー選手が同室になり、深夜、部屋に侵入して来たコウモリを追い払おうと騒ぎだしました。その後も無理矢理 記念写真をとらされ、一晩中大はしゃぎで大変でした。
9月16日は日帰りでフィゲラスへ。
9月17日。
再びカサ・バトリョを訪れました。目的は一昨日見れなかった主階部分を見ることです。
階段を登ると、バトリョ家の住居であった主階部分に辿り着きました。
ファサードを内部から見ると、ステンドグラスが外から見る時とは全く異なる輝きを見せてくれます。
そこから自然光を取り入れることで、空間全体にやわらかい統一感が生まれています。見事な演出です。
こんな建築は見たことがありません。
カサ・バトリョの後ろ側。
床。
この日の後半の様子は、次回へ続きます。